池田晶紀参加
「だれもが文化でつながるサマーセッション2023」開催

2023年7月29日より、東京都美術館にて開催する「だれもが文化でつながるサマーセッション2023」の展示に、
池田晶紀が参加します。

本展では、QDレーザというレーザ網膜投影技術を⽤いたカメラ用デバイスを使って撮影した盲学校の高校生たちの写真作品と、
QDレーザを実際に体験している様子を追ったドキュメントの写真と動画作品を展示します。

ぜひお越しください。

「はじめてみる」 ©︎Masanori Ikeda

photo:Masanori Ikeda

だれもが文化でつながるサマーセッション2023
会期:2023年7月29日〜8月6日
会場:東京都美術館 第4公募展示室
入場料:無料
URL:https://www.creativewell-session.jp/

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「はじめてみる」

マスクを外して、鼻から下まで、はじめてみる友達の顔。
七月のこの日、盲学校に通う高校二年生のひかりちゃんと三年生の小林先輩は、
少し遠く離れた場所からでも、お互いの顔をよくみて、手を振り、写真を撮る。
そんなはじめての体験をしました。

だれにだってあるはじめての〇〇な体験も、
もしかしたら同じような感動があるのかもしれないけれど、
弱視でボヤけていた景色から、はっきりみえるまでを目の当たりした人は、
こんな表情になるのかぁ〜、と。
ぼくはそんな貴重な現場に立ち会い、その一部始終をドキュメントさせてもらいました。

ふたりが使っている機械の名前は「QD(キューディ)レーザ」と呼ばれる特殊な除き穴で、
カメラの機能を持っていて、ボタンを押すと写真が撮れます。
不思議なことにそのファインダーを覗くとデジタル画像が網膜に直接映像を映し出してくれるモノです。
それを使って、どこに行きたい?とか、何がみたい?と、尋ねながら、試してもらいました。
まずは、教室の軒先にあるベランダに出て、鉢植えで育てている綿の苗や、
向かいのグランドでサッカーをしている高校生などをみることにしました。

彼女たちは、とても真剣です。
それもそのはず、目を大きくあけて覗くと、その先に見えなかった景色がみえるからです。

ぼくは「どお?みえる?」と聞くと、
「はい、みえます。・・・。」と、続けて、
「わたしは普段遠くがほとんどみえないのですが、このズームボタンを押して拡大すると遠くのものまでもみえます」と。

「そーなんだぁっ〜、凄いね!」というと、
「はい」と、うれしそうに答えてくれました。

では、次は何みようか?と、尋ねてみると
「廊下の掲示板がみたいです」というので、
今度は掲示板に書かれた文字や地図などをじっとみていました。

さて、ここで一旦おしゃべりしましょう。と、
今どんな気持ちか?知りたいんですが、せっかくふたりが協力してくれたので、
お互いの顔をマスク外してみてみる時間をつくらない?と提案すると、
「はい、顔がみたいです」と、言ってくれました。
そこからは、時間の許す限り、ふたりは広い校庭に出てお互いの顔を見ながら声をかけて、
写真を撮りあいました。

ぼくは、ふたりの少し離れた距離からみていると、
「撮られることが、少し恥ずかしい。」も、体験しているようで、
相手の顔がよく見えていることがわかりました。
そして「撮ることは、みれてうれしい」の証のようでもあり、
そういう時間を過ごしている姿が、本当に凄いことでした。

この後、ふたりは、出来上がったお互いの顔写真を大きくプリントし、みることになります。
写真は、思い出を思い出す力があります。

今回の展示では、この時の気持ちを写真で振り返り、
言葉にした本人のコメントと写真、それからドキュメントとをセットに、展示空間にしました。

最後に、今回ぼくもふたりをみて教えてもらったように感じたことがたくさんありました。
それは、じっくりモノをみる時間と、はじめてみる行為は、決定的な記憶体験となっていく現場でした。
そしてその姿は、記憶と印象をもの凄い集中力で脳に定着させるスケッチのようでもあり、
目には見えない世界を描くための画家のようでもありました。
つまり、はじめてみるは誰にだっていつもある一瞬だけれど、それは目や眼球でみているのはなく、
脳に焼き付けるような感覚でみているということが、本当にみている景色なんだと思いました。

写真家・池田晶紀